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    地域を捨てる学力

    • 執筆者の写真: アキラ イハラ
      アキラ イハラ
    • 4 日前
    • 読了時間: 5分
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     『教育ビジネス』(宮田純也 クロスメディア・パブリッシング 2025年)という本の中に、「地域を捨てる学力」という表現を見つけて目が止まりました。



    おそらく、教育者東井義雄の「村を捨てる学力」から着想を得た表現だと思います。


    東井義雄(1912-1991)は「日本のペスタロッチ」と呼ばれる教育者で、小学校で教諭をつとめるかたわら、たくさんの著作を残しました。


    その著書の一つ『村を育てる学力』の中に、次のようなエピソードが紹介されているそうです。貧しい地域で教師をしていたおり、「長男には勉強を教えないでほしい。」と言われたのです。学力が伸びて進学を希望するようになると村を出ていってしまうからです。そこから、進学のための学力を「村を捨てる学力」と呼びました。





    筆者は以前、九州のある自治体から、「地域未来塾」の企画・運営の委託を受けました。「地域未来塾」とは、文部科学省が推進する「地域学校協働活動推進事業」の一環として、国と都道府県と自治体の支援による無償の学習指導を行う試みです。


    学習支援が必要な全ての児童・生徒を対象として、「学習習慣の確立」「基礎学力の定着」を目指し、地域住民の協力により放課後や夏休みなどに学習支援を行うもので、自治体ごとにさまざまな取り組みが行われています。


    この自治体は山間地に位置し、人口15,000人ほどの深刻な少子高齢化の課題を抱えた地域で、広大な面積を持つ町内に3校ある中学の生総数は、3学年合わせて300人程度です。


    進学先には、普通科と農林業系の学科を持つ全校生徒数120名程度の公立高校が1校のみです。地域の少子化の影響もあり、定員充足率は30%程度です。大学進学のためのコースには毎年10名前後が在籍します。


    学年別の中学生数から計算すると、半数以上の生徒が町外の高校へ進学しています。


    地域の方に話をうかがうと、この町から都市部の大学などへの進学を目標にする生徒の多くが高校の段階から親元を離れて県庁所在地の進学校へ進みます。そのため、この町の人にとって高校段階から親元を離れて生活することは、珍しいことではなりません。しかし、こうして一度実家を離れてしまうと、その後大学へ進学し社会人になってもほとんど町へ戻ってくることはありません。


    この町で進学校へ進学する、または都市部の大学を目指すことは、まさに「地域を捨てる学力」を目指すことになります。

    消滅可能性自治体にも名を連ね、2050年の人口は6000名を下回ると推計されるこの町の行政は、どうにか人口減少に歯止めをかけたいと、移住・定住の促進にも努めています。移住を促進するにはやはり魅力的な町づくりが肝心ですが、中でも子育て環境・教育環境の充実は、移住を検討する人々にとっての重要事項です。





    以下は、地方移住にあたっての懸念についてのアンケート結果の一部です。


    (新型コロナウイルス感染症の影響下における 生活意識・行動の変化に関する調査                         2023年3月データ:内閣府)
    (新型コロナウイルス感染症の影響下における 生活意識・行動の変化に関する調査                         2023年3月データ:内閣府)



      また、別の調査では、25から39歳の子育て世代の女性では、地方へ移住したくなる条件として、「子どもの教育環境がととのっていること」と答えた人は30%という結果もあります。


    平成26年三菱総合研究所「人口移動効果を踏まえた自治体の福祉政策展開」に関する調査
    平成26年三菱総合研究所「人口移動効果を踏まえた自治体の福祉政策展開」に関する調査

      


      移住によって人口流入をうながすには、魅力ある教育環境の整備が必要だと言うことがわかります。反対に、教育環境への不満や不安は転出につながってしまいかねません。


     「地域未来塾」の活動は、学習習慣の定着や苦手意識の克服、つまずきの解消などを目的にうたったもので、直接的に進学のための学力向上を目的にしたものではなりませんが、地域の教育環境向上の側面もあります。




      私が企画した「地域未来塾」の立てたプランは、簡単に言えば、英語・数学の基礎内容をまとめた学習プリントデータベースを使って、その場でPCから個別にプリントを出力し、大学生が丸つけ・評価と質問対応を行うというものでしたが、同じデータベースは全国の多くの学習塾にも導入されているもので、塾での指導にかなり近いものと言ってよいものでした。

     

     まさに「地域を捨てる学力」につながるもとも言えるこのような学習支援活動は、将来的な人口流出を加速するのではないかと考えると、ジレンマとも言えます。




     その後の調査で、受講した生徒たちの学習効果が顕著に見られ、多くの生徒が希望する進学校に合格したなど、高い評価いただき、うれしさの反面複雑な思いを抱いたものでした。



      


     東井義雄は「村を捨てる学力」に対立する概念として「村を育てる学力」を据えて、自ら考える力を育む、現代の新学習指導要領にも通じるような教育を行いました。少子高齢化が進行するような地域に住み続けて成長する子どもたちには、どのような学力が求められるのでしょうか。



     

     後年、私はそうした山間地に建設される義務教育学校の基本計画を策定する機会に恵まれたのですが、Society5.0の時代、またはVUCAの時代とも言われる未来を生きる、過疎地域の子どもたちには、なおさらしたたかな「生きる力」が求められるのではないかと考えるに至りました。


     それは一言で表すなら、アントレプレナーシップのようなものだと考えます。「起業家精神」と訳されることも多く、なかなか教育現場では理解が得られにくい概念ですが、次々に押し寄せる前代未聞の課題に、さまざまな知恵を駆使し、周囲の人々と力を合わせて解決策を導き出す、そんな能力を育てることが大切なのではないかと考えたのです。





     
     
     

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