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    公立通信制高校と私立通信制高校

    • 執筆者の写真: アキラ イハラ
      アキラ イハラ
    • 6月9日
    • 読了時間: 5分

    更新日:10月1日

    私立の通信制高校と公立の通信制高校

     通信制高校の生徒数の増加が注目されています。通信制高校の生徒数は増加の一途をたどり、令和6年学校基本調査では29万人を超えました。生徒数だけでなく、通信制高校の数自体も急増しており、同じく令和6年の数値では、公立が79校、私立が224校、合わせて303校となりました。


    私立通信制高校のみが増加

    (出典)文部科学省「学校基本調査」

     

     グラフの示す通り、数を増やしているのは私立の通信制高校で、公立の通信制高校の数は、昭和45年時点の67校から12校しか増えていません。生徒数に関しては私立の通信制高校が昭和45年時点で52,900人から229,754人へとおよそ4倍に増えているのに対して、公立の通信制高校では、昭和45年時点で95,848人であったところから、令和6年には60,333人へと逆に減少しています。通信制高校の生徒数の増加の内訳は、もっぱら私立通信制高校によるものです。



    年齢別生徒数の比較

     公立通信制と私立通信制に在籍する生徒の年齢別生徒数の割合を比較すると、両者の違いが少し見えてきます。


    私立と公立、在籍する生徒も異なる

    (出典)文部科学省「学校基本調査」


     全日制高校に在籍する生徒のほとんどが15歳から18歳であるのに対して、通信制高校に在籍する年齢層は15歳から60歳以上までと幅広く、昭和60年頃には、通信制の生徒の約半数が19歳以上であったことがわかります。


     このように、公立通信制高校と私立通信制高校は大きく異なるのです。


     これは、通信制高校が、本来就労しながら学ぶための施設であったためです。現在でも年令を問わず仕事を持ちながら通信制高校に学ぶ生徒は、パートやアルバイトまで含めると半数近くになります。


     しかし、私立通信制に絞って見てみますと、生徒のほとんどが15歳から18歳までの、全日制高校に通う年齢層と同じであることがわかります。これは、現在の私立通信制が、不登校経験やさまざまな事情から、全日制高校ではない進学先として選択されていることを物語っています。

     

    そして、就労しながら高校卒業を目指す人達や、学び直しの学習として通信制高校に在籍する人たちは、公立通信制を選択する傾向が表れています。そのため、登校が必要なスクーリングは、公立通信制では平日ではなく日曜日に設定されるのがほとんどです。また公立通信制が全日制高校に併設されていることも、日曜日にスクーリングが行われる理由の一つです。



    単位修得者の割合

     文部科学省の資料「高等学校通信制課程の現状について」によると、令和1年に公立通信制で履修して単位を修得した人数は27,384人、これは令和1年度間に在籍した生徒の49.2%ということです。半数以上の生徒が単位修得に至らなかったのです。 これに対して、私立通信制の履修者は133,267人で、その割合は85.9%となっています。公立では例年50%を下回っているのに対して、私立で単位修得に至った割合は85%を超える高い割合になっています。


      この数値の差には、公立通信には職業に従事しながらなど、多様な生活上の課題を抱えながら並行して学修を進めている生徒が多いなどの事情もありますが、制度としての違いも影響している可能性があります。



    スクーリング日数

     公立通信制では、スクーリングの日数が年間20日程度と言われています。これは高校指導要領の通信制課程の規定にそった時間数を忠実に行っている結果だと考えられます。通信制課程では、レポートの添削指導を中心とした自学自習での学習が基本ですが、各科目で一定時間の面接指導を行うこととなっています。例えば、国語や数学では3回の添削指導につき1回の面接指導、体育では1回の添削指導について5単位時間(50分☓3回)の面接指導が必要とされています。この面接指導を登校して受講することが、いわゆる「スクーリング」と呼ばれているものです。

     

     しかも、面接指導の本来の形は、添削指導によって生じた疑問点や、学習の行き詰まりなどを、個別指導などを通して解決することですが、公立通信でのスクーリングの学習は、全日制高校での「授業」に近いものだと言われています。

     

     高校によっては、自習室にチューターを置いて、スクーリング授業とは別に個別の学習指導を行うところもあるようです。

     

     一方で、私立の通信制高校では、このスクーリングの日数を、できる限り圧縮しようとするところが多いようです。指導要領には、テレビやラジオなどのメディアによる学習(NHKの高校講座を視聴するなど)を行うことで、80%までの面接指導を免除することができるとしています。


     公立通信制高校で20日間を要するスクーリングは、これにより多くの私立通信では3~4日に圧縮されているようです。これを年に1回~2回の集中スクーリングで行うことで、ほとんど通学することなく単位を修得できるシステムを作り上げています。



    学びの権利

     公立通信が、学習指導要領により忠実な形で学習指導を行うことで、単位修得のための生徒の負担は比較的重いものにならざるを得ません。このことも単位修得率の相違につながっているのだろうと想像します。


     そして、私立通信は、あくまでも指導要領に則った範囲でスクーリング時間を圧縮するなど、ある意味「ユーザーフレンドリー」なシステムを提供しながら生徒数を伸ばしてきました。


     高校卒業資格に通信制課程卒業と定時制・通信制課程卒業による差はありません。それは、どちらも学習指導要領に定められた学習内容が担保されているという信頼の上に成り立つものです。

    私立通信の中に、かつてのウイッツ青山学園高校で行われたような、いい加減な教育で単位を認めている学校が未だに存在することはないと思いますが、同じ高校卒業資格の前提となる学修が、全日制高校に学ぶ生徒と通信制高校に学ぶ生徒のあいだで、指導要領の枠をはみ出して大きく異なるようでは困ります。


     生徒の学修に対する取り組みは多様ですが、生徒には学ぶ権利もあります。安易な「ユーザーフレンドリー」路線が、学ぶことを必要としている生徒の権利までもないがしろにするものであってはならないと思います。







     
     
     

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